海外のロックレビューを追っている人なら、この数年で評価の物差しが変わったのに気づいているはずだ。かつては「どれだけ硬いか」「ボルトカッターに耐えるか」が中心だった。いまは違う。2026年5月に更新された BikeRadar の実験室テストでも、比較の軸はほぼ一点に集約している。アングルグラインダー(電動ディスクグラインダー)で何分もつか、である。
同記事では、アブス初のグラインダー耐性モデル Abus Granit Superxtreme 2500 が、片面を切るのに「12分30秒・切断ディスク5枚」を要したと報告されている。対照として、装甲されていない直径14mmのシャックルはグラインダーで22.3秒、8mmのバーは8秒で切れたとも書かれている。世界のロック評価は、この「グラインダーに何分抵抗できるか」という時間軸で並べ替えられつつある。
では、日本で高価な一台を日常的に停めているロード乗りは、いますぐグラインダー対応の重い鍵に買い替えるべきなのか。今週の切り口はここだ。結論を先に言えば、答えは「使う場所と停め方しだい」で、闇雲な買い替えより先に確認することがある。
世界の物差しが「グラインダー耐性」に寄った理由
背景には、海外都市で電動ディスクグラインダーを使った窃盗が目立つようになった実態がある。ロンドンでは白昼の路上でチェーンをグラインダーで切って自転車を持ち去る様子が報じられ、犯行の一部が日中に移っている傾向も指摘されている。米国でも、組織的な窃盗グループが携帯型グラインダーで高価な e-bike を狙うとされる。
こうした実態を受けて、評価基準そのものが更新された。イギリスの Sold Secure は、2022年に二輪向けの枠組みを「Powered Cycle」へ改称し、その最上位である Diamond 格付けは、おおむね90秒のグラインダー攻撃と数分の工具攻撃に耐えることを要件にしているとされる。世界初の携帯型グラインダー耐性ロックとされる Hiplok D1000 が2021年に登場して以降、Litelok X1/X3 や前述の Abus Superxtreme 2500 など、グラインダーを想定した「装甲ロック」というカテゴリーが確立してきた。
重要なのは、これらの製品が「切れない鍵」ではないということだ。狙いはあくまで、犯人に切断を断念させるだけの時間とディスクの消耗を強いることにある。CSIが繰り返し書いてきたとおり、守る側は構造的に不利で、「絶対盗まれない」鍵は存在しない。装甲ロックの12分という数字も、絶対の安心ではなく、時間稼ぎの上限を示す目安として読むべきだ。
日本の現場は、いまも「番線カッター」が主戦場
ここで日本の報道に目を移すと、様子が少し違う。2026年に入って警視庁が発表した、都内を中心に高価なスポーツ自転車を50件以上盗んだとされる事件では、犯行に使われたのは「番線カッター」と呼ばれる工具で、これでチェーンを切断したと説明されている。同じ時期に報じられた、トライアスロン用ロードバイクをマンションの駐輪場から盗んだとされる事件でも、チェーン錠を工具で切って持ち去ったとされている。
つまり現時点の国内報道では、切断工具の主役は電動グラインダーではなく、静かで持ち運びやすい番線カッター(ボルトカッター)だとみられる。海外の評価トレンドをそのまま日本の日常に当てはめると、狙いを外しかねない。ここに、今週いちばん伝えたい示唆がある。
買い替える前に、まず確認する三つ
海外のグラインダー標準は無視してよい話ではない。だが日本のロード乗りにとって、優先順位は次の順だと考えたい。
1. いまの鍵は「番線カッター」に対して形状で稼げているか。 CSIの立場は一貫して、素材の硬さだけで鍵を選ばないというものだ。番線カッターは、細いワイヤーや薄いチェーン、隙間に刃を差し込める形状に強い。逆に、太くて刃をかけにくい形状、こじりにくい厚みのUロックや太径チェーンは、同じ工具でも時間を稼ぎやすい。まず自分の鍵が「刃をかけにくい形状」かを見直したい。硬さの等級表示よりも、犯人がその場で刃をかけられるかどうかが実戦の分かれ目になる。

2. 構造物と締結できているか(アースロック)。 どんなに強い鍵でも、地面から浮いた状態で車体だけに巻いていれば、車体ごと持ち去られて別の場所で切られる。動かせない構造物に締結する「アースロック」の発想は、グラインダーでも番線カッターでも共通して効く前提だ。停めた瞬間に、鍵が構造物を噛んでいるかをいつも確認したい。

3. 場所と時間を変えられているか。 同じ駐輪場に毎日同じ時間で停め続ける車体は、下見の対象になりやすい。防犯は最終的に状況判断の総合技術で、鍵の等級だけでは埋められない。人目・滞在時間・停める位置を毎回同じにしない工夫が、工具の種類を問わず効く。
では装甲ロックは日本で不要なのか
不要とは言い切れない。輪行先や都市部の長時間駐輪、屋外に高価な e-bike を置かざるを得ない状況など、リスクの高い場面では、グラインダー耐性クラスの装甲ロックが時間稼ぎの上限を引き上げてくれる。ただしこのクラスは総じて重く、2kg級も珍しくない。軽量化にこだわるロード乗りにとって、軽さと頑丈さは常に矛盾する。毎回2kgを持ち歩くのか、リスクの高い日だけ使い分けるのか。自分の走り方と停める場所から逆算して決めるのが現実的だ。
海外の「グラインダー12分」というニュースは、鍵の世界が確実に厳しい方向へ動いている証拠だ。だが日本のあなたの一台にとっての正解は、その見出しの数字ではなく、いま自分が停めている場所で、いまの鍵が番線カッターに何秒抵抗できるかにある。今週はまず、通勤・練習でいつも停めている場所を一つ思い浮かべて、鍵の形状と締結先を見直すところから始めてほしい。
具体的な鍵の形状と使い分けは防犯ブログの実践記事と防犯ガイドでも扱っている。もし身近で盗難に遭ってしまったら、転売経路の監視と情報共有が現実的な勝ち筋になる。被害の登録・検索は被害データベースを使ってほしい。
参照元: BikeRadar「Best bike locks 2026 tested in lab conditions」(2026年5月18日更新) https://www.bikeradar.com/advice/buyers-guides/best-bike-lock Sold Secure「Powered Cycle ratings」 https://soldsecure.com/ratings/powered-cycle road.cc「Hiplok reveals portable angle grinder proof bike lock」 https://road.cc/content/tech-news/hiplok-reveals-portable-angle-grinder-proof-bike-lock-286723 TBS NEWS DIG(2026年5月15日) https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2663236 産経新聞(2026年5月15日) https://www.sankei.com/article/20260515-BQZKLBZ5BNJCFI6J4SN3TINIVU/ Cycling Weekly「Only 1% of London bike thefts result in police action」 https://www.cyclingweekly.com/news/only-1-percent-of-london-bike-thefts-result-in-police-action-according-to-figures