自転車盗難について「体感」や「通説」ではなく、数字とエビデンスで考えたい。論文を探している学生・研究者、防犯記事を書くために正確な統計が必要な方、あるいは自分の住む街のリスクをデータで確かめたい方。このページは、そんな「一次情報」を求める方のためのナビゲーションです。
警察庁の全国統計から査読付き学術論文、海外の研究、民間の実態調査まで、自転車盗難に関して信頼できるデータソースをカテゴリ別に整理し、それぞれ「何がわかるか」を添えて紹介します。

公的統計(警察庁・都道府県警察)
自転車盗難の全体像を数字で把握するなら、まずは警察庁の犯罪統計です。全国の認知件数・検挙件数・回復率が都道府県別・年次別にまとめられており、長期的な変化を追えます。

警察庁「犯罪統計書」
各年度の犯罪統計を全ページPDFで公開しています。自転車盗は「窃盗」の内訳として、都道府県別の認知件数・検挙件数・回復件数・回復率が収録されています。令和6年(2024年)版まで公開中です。
- 警察庁 統計一覧: https://www.npa.go.jp/publications/statistics/index.html
- 犯罪統計書 各年度: https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/
ここでわかること:自転車盗の全国的な発生件数の推移、都道府県別の傾向と回復率。時系列で見ると、件数は2010年代に大きく減少した後、ここ数年は横ばいから微増に転じています。ただし、この数字にはママチャリの「足代わり盗難」と高級車を狙う「換金盗難」の両方が混ざっている点に注意が必要です(この区別については、本サイトの「都道府県ランキングで語れない自転車盗難」で詳述しています)。
警察庁「犯罪情勢」
毎年2月ごろに公表される前年の犯罪概況です。自転車盗の認知件数と前年比が速報値としてまとめられています。最新の令和7年(2025年)は全国で約17.3万件、前年比0.8%減でした。
犯罪オープンデータ
各都道府県警察が公開する犯罪データへのリンク集。自転車盗の月別・署別データを機械可読形式で取得できる地域もあります。
- 犯罪オープンデータ リンク集: https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/hanzaiopendatalink.html
e-Stat(政府統計の総合窓口)
警察庁の犯罪統計をExcel・CSV・PDFでダウンロード可能。月次・年次で自転車盗データを抽出できます。自分で集計・可視化したい方に。
- e-Stat 犯罪統計: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&query=%E8%87%AA%E8%BB%A2%E8%BB%8A%E7%9B%97&layout=dataset
都道府県警察の統計
各都道府県警が独自に公開する統計ページです。集計粒度や更新頻度は自治体によって異なります。以下は代表例です。
- 警視庁「自転車盗の防犯対策」(東京都の発生状況・発生場所の傾向): https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/higai/guard/bicycle_bohan.html
- 神奈川県警「自転車盗・オートバイ盗の発生状況」(月別・署別・場所別・施錠有無の内訳が詳細): https://www.police.pref.kanagawa.jp/kurashi/gaito_hanzai/mesd0066.html
学術論文・研究
自転車盗難を学術的に分析した研究は、犯罪学・都市計画・GIS(地理情報システム)・データ工学など複数の分野にまたがります。国内の論文はCiNii ResearchやJ-STAGEで検索できます。
主要な国内論文
「自転車盗多発区域推定モデルの構築に関する研究」(土木学会論文集) 過去約7年分の自転車盗発生データを使ってカーネル密度推定法による多発区域モデルを構築。最適バンド幅40mと、自転車盗発生に関係する都市構成要素を明らかにしています。
「自転車盗難の地理的分布と要因分析」(DEIM2025) 神奈川県内の町丁目単位データとGIS情報を統合。人口密度や商業施設・大学の有無が盗難リスクに与える影響を定量化し、郊外では大学の存在が大きな要因になることを示しました。
「被疑者調査からみる自転車盗の実態」(J-GLOBAL収録) 被疑者調査に基づき、年齢と施錠有無の4群比較を実施。半数以上が無施錠の自転車を「足代わり」目的で窃取している実態を報告しています。
論文の探し方
特定のテーマで論文を探す場合、以下の学術データベースが便利です。
- CiNii Research: https://cir.nii.ac.jp/。「自転車盗難」「自転車盗」「bicycle theft」などのキーワードで、学術論文・学会発表・研究データを横断検索できます。
- J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/。国内の査読付き学術誌を横断検索できます。
- Google Scholar: https://scholar.google.com/。日本語・英語の論文を横断検索。被引用数や関連文献も辿れます。
民間調査・アンケートデータ
学術論文や公的統計とは別に、民間企業が実施した実態調査も貴重な一次情報です。特にスポーツ自転車ユーザーに対象を絞った調査は、公的統計では見えない解像度を提供します。
スポーツ自転車の盗難実態に関するアンケート結果(AlterLock、2019年) スポーツ自転車ユーザー621名を対象にした詳細調査。盗難への不安(97%が「非常に不安」または「少し不安」)、利用している鍵の種類、盗難被害率、被害時の行動、発見率などを集計。スポーツ車ユーザーの実感に近いデータです。
海外の研究・国際比較
自転車盗難は日本特有の課題ではありません。海外の研究には犯罪機会論・環境犯罪学・被害者調査など、日本より先行する領域も多くあります。
総合ガイド
「Bicycle Theft」(Johnson, Sidebottom & Thorpe, 2008)。Problem-Oriented Policing Center(米国司法省)が公開する警察向けの総合ガイドです。問題定義からデータ分析、具体的な対策までを網羅。ICVS(国際犯罪被害調査、17か国対象)のデータも収録され、自転車盗被害者の警察通報率が56%にとどまることなど、国際比較の基礎資料としても有用です。
主な研究論文
「'Cycle Thieves, We Are Watching You'」(Nettle, Nott & Bateson, 2012)。PLOS ONE(オープンアクセス)に掲載。英国の大学キャンパスで、「監視の目」を想起させる掲示による盗難抑止効果を実証実験。「見られている」という心理が実際に盗難を減らすことを示した研究です。
「Breaking into bicycle theft: Insights from Montreal, Canada」(van Lierop et al.)。International Journal of Sustainable Transportation に掲載。モントリオールでの2,039人を対象にしたオンライン調査。盗難発生場所・施錠状況・発見率などを多角的に分析しています。
「The impact of bicycle theft on ridership behavior」(Kerr et al., 2024)。International Journal of Sustainable Transportation に掲載。1,821人の盗難被害者を対象に、盗難がその後の自転車利用行動や交通手段選択に与える影響を分析。盗難被害が「自転車に乗らなくなる」という二次的損失を生むことを実証しています。
「Tracking stolen bikes in Amsterdam」(2023)。PLOS ONE(オープンアクセス)に掲載。低価格GPSトラッカーを使ってアムステルダムで盗難自転車を追跡した実験。GPSの実効性と限界を知るうえで参考になります(追跡デバイスの現実的な評価については、本サイトの「AirTag・GPSで自転車は取り返せるのか」も参照ください)。
関連する政府統計
自転車盗難をより広い文脈で捉えるための関連統計です。
「駅周辺における放置自転車等の実態調査」(国土交通省) 全国909市区町村を対象にした調査。放置自転車の台数推移や撤去の実績をまとめています。盗難とは直接異なりますが、駐輪環境の現状を知る基礎資料です。
「自転車交通に関する政策レビュー」(国土交通省) 自転車を取り巻く総合的な施策とデータ。事故・放置自転車・通行空間整備を包括的に扱っています。
CSI被害データベース(スポーツ自転車に特化した一次情報)

CSI:自転車特捜24時が運営する被害データベースは、高級スポーツ自転車(ロードバイク・マウンテンバイク・クロスバイク等)に特化した盗難被害アーカイブです。
公的統計が自転車全般(ママチャリを含む)の数字であるのに対し、この被害DBは「換金目的のプロによる盗難」、つまりスポーツ自転車ユーザーが直面するリスクに焦点を当てています。車種・被害状況・場所などの実例が蓄積されており、統計の数字だけでは見えない「どのような自転車が、どこで、どのように盗まれているか」を具体像として把握できます。論文や統計とあわせて参照することで、マクロの数字とミクロの実例の両面から自転車盗難を理解できます。
- 被害DBを見る・登録する: https://www.cycle-search.info/case
データや研究は、それ自体が答えではなく、状況判断の材料です。知ったうえで、何を選び、どう停め、どんな判断をするか。それがCSIの考える「知識が大切」という姿勢です。
盗難被害に遭われた方は、ぜひ被害DBへの情報登録もご検討ください。一件一件のデータが、次の被害を防ぐ知識になります。
参照元:
- 警察庁「犯罪統計書」各年度版
- 警察庁「犯罪情勢」各年度版
- 警視庁「自転車盗の防犯対策」
- 神奈川県警「自転車盗・オートバイ盗の発生状況」
- J-STAGE / CiNii Research
- DEIM2025 第17回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム 発表資料
- AlterLock「スポーツ自転車の盗難実態に関するアンケート結果」(2019年)
- POP Center "Bicycle Theft" Problem-Oriented Guides for Police (2008)
- Nettle, Nott & Bateson (2012), PLOS ONE
- van Lierop et al., International Journal of Sustainable Transportation
- Kerr et al. (2024), International Journal of Sustainable Transportation
- PLOS ONE (2023) "Tracking stolen bikes in Amsterdam"
- 国土交通省「駅周辺における放置自転車等の実態調査」
- 国土交通省「自転車交通に関する政策レビュー」